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診療科・部門案内

前立腺低侵襲治療センター

ご挨拶

近年の高齢化社会において前立腺癌の患者数は右肩上がりで増加しており、男性の癌の中では第1位(国立がん研究センターホームページ)、男性の約10人に1人は罹患する疾患といわれています。前立腺癌患者の皆様に、体への負担が少なく、質の高い治療を提供し、安心して日々の生活をおくっていただけるよう、日々診療にあたっています。

密封小線源治療(ブラキセラピー)とは?

本治療は手術に比べ入院期間が短く(2泊3日)、身体的な負担や副作用も少なく、病気の状態によっては手術とほぼ同等の治療効果が期待できる治療法です。早期前立腺癌治療に対する選択肢のひとつとしてたいへん期待のできる治療ですが、他の治療法と同様に一長一短があります。
前立腺癌にはいくつかの治療法があるため、患者さんご自身が充分に病状や治療法を理解されたうえで、治療法を選択することが求められています。 本治療を患者の皆様にご理解していただけることを願って、以下に解説をいたしました。
小線源治療は、弱い放射線を出す小さな線源(シード)を前立腺内に埋め込み、前立腺の内部から放射線を照射する治療法です。シードにはヨウ素125という放射性同位元素が密封されており、通常50~100個程度埋め込みますが、これは患者さんの前立腺の体積や悪性度によって異なります。埋め込む位置は、放射線科医がコンピューターを用い、尿道や直腸など他の臓器への影響が最小かつ最も治療効果の高くなるよう入念にプランを作成して決定します。シードから放出される放射線は徐々に減少し、2ヶ月で約半分、1年程でなくなるといわれています。シードは永久に前立腺に残りますが、問題はありません。

横浜市立大学における小線源治療

横浜市立大学附属病院では2004年より前立腺癌に対してヨウ素125を用いた密封小線源治療(ブラキセラピー)を開始し、2019年12月までに約1750症例の治療を行っております。治療の立ち上げに時には、本学OBで現在カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)泌尿器科教授である篠原克人先生にご指導をいただきました。その後、米国マウントサイナイ病院ストーン教授、滋賀医科大学岡本教授からの技術指導を仰ぎながら現在に至っており、高リスクがんに対するTrimodality治療(小線源治療+外照射治療+ホルモン療法)も積極的に行っております。現在当院ではセラストランド-SLを使用しております。

小線源治療で使用する器具と前立腺に器具をはめ込むイメージ画像小線源治療で使用する器具と前立腺に器具をはめ込むイメージ画像

当院では原則全身麻酔にて治療を行い、入院期間は2泊3日となっています。治療日(水曜、金曜)の前日に入院していただき、翌日治療を行います。治療に要する時間は通常2~3時間程度です。全身麻酔で眠った後に写真のような姿勢をとり、肛門から超音波装置を挿入して前立腺の形態を3次元的に解析し、コンピューターに取り込みます。このデータ画像を見ながら放射線科医が最適なプランを作成、泌尿器科医が会陰部(肛門と陰嚢の間)から筒状の針を刺入してシードを留置します。この作業はリアルタイムで結果を確認し、微調整を行いながら進めます。シード留置後は尿道カテーテルを挿入して治療は終了となります。全身麻酔ですので治療中に痛みを感じることはありません。麻酔からはすぐに覚めますが、その時点でも大きな傷みを感じることはなく、カテーテルの違和感(おしっこをしたいと感じてしまう)程度です。ほとんどの方は”もう終わったの?”と言われ、まさに眠っている間に終わっているというのが特徴的です。治療翌日までは個室にてベッド上安静となります。問題なければ飲食は夕方から再開できます。
翌日朝に尿道カテーテルを抜き、室内の放射線レベルのチェックを行います。ご自分で排尿ができるのを確認後に退院となります。

コンピューターのデータ画像と手術の様子の写真コンピューターのデータ画像と手術の様子の写真

合併症

この治療は多くの場合順調に経過し、合併症発生率はそれほど高くありませんが、リスクがまったくないわけではありません。以下、順に説明いたします。

1)出血の可能性

会陰から針を刺すことに伴い、少量の出血があります。血尿や、皮下出血として現れることもありますが、ほとんどの場合経過観察のみで対応可能です。

2)感染症

人工物を体内に留置することにともなう感染や、全身麻酔に伴う術後肺炎のリスクなどがあります。予防的に少量抗生物質を投与しています。

3)排尿に関する短期~中期的な障害

治療の影響で前立腺が腫れること、また、放射線の膀胱や尿道への影響で頻尿・排尿困難などが程度の差はあれ、ほとんどの方に出現します。治療後2ヵ月前後が症状のピークと言われています。ただし、長期間にわたって尿閉をきたし、カテーテルによる排尿を必要とするような可能性も少ないながらも存在します(200〜300人に1人程度)。排尿症状改善のために、αブロッカーと呼ばれる前立腺肥大症に対する内服薬を処方いたしますが、1年程度で内服終了となることが多いです。

4)放射線による晩期合併症

放射線による障害は、数ヶ月から数十年経って現れてくることもあります。本治療では、尿道や直腸への影響に注意が必要です。尿道にたくさん放射線がかかリすぎると尿道狭窄を起こす可能性があり、排尿が非常に困難になります。直腸に関しては、肛門出血、下血、直腸潰瘍、直腸尿道瘻の発生などの報告があります。尿道や直腸への放射線量は過多にならぬようデザインされておりますが、20%程度の方に軽度な出血が見られます。重篤な例は非常に低頻度(0.1%程度)と考えられます。

5)男性機能障害

治療の影響で勃起障害・射精障害をきたす可能性があります。これは勃起をつかさどる神経が前立腺周囲に存在し、これが放射線による障害を受けるためです。確率などは年齢、併存疾患により異なります。また勃起能が温存されても、年月とともに精液量は減少します。

6)線源の肺への移動、尿中への脱落

線源は前立腺内に挿入するのが原則ですが、前立腺の周りの静脈内に入ってしまうことがあります。静脈内に入った線源は血流にのり、肺や肺に至る途中の血管内に移動してしまうことがあります(以前は30%程度ありましたが、現在では数%程度)。基本的に肺・血管内へ移動した線源を回収することはありません。また、前立腺の奥の膀胱内に線源が脱落した場合、排尿時に線源が出てくることがあります(1%以下)。当院において迷入した線源による有害事象は確認されておりません。

7)全身合併症

術中術後に心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、肺動脈塞栓症、肝腎機能障害、薬物によるアレルギー反応などが発症すると致命的な状態に陥る可能性がないとはいえません。これらの病態は日常生活でも発症する可能性がありますが、手術で体に負荷がかかることにより発症しやすくなると考えられます。とくにこれらの疾患の素因がある患者さん、高齢の患者さんは発症率が高くなります。

初診から治療までの流れ

当院では治療と同様に、患者さんの負担を最小限に抑えるよう、初診から最短で2回の受診で入院が可能です。

初診時

当院以外からの患者さんは以下のものをご用意してください。
  • 紹介状
  • 画像資料:MRI CT 骨シンチグラフィー
  • 病理生検プレパラート
初診日(主に月・火午前)に小線源治療が可能と判断された場合は、その日に暫定的な治療日を決定するとともに、入院に必要な検査(採血・採尿・レントゲン・心電図)を行います。
当院にて病理検体の見直しを行いますが、紹介元病院の結果と異なることが散見されます。その場合、治療日や方針の変更を行うことがあります。

術前説明・同意

治療日の約1ヶ月前に、麻酔科医師、放射線科医師、泌尿器科医師からそれぞれ説明があり、同意書をお渡しします。その後に入院についての詳しい説明がサポートセンターからあります。この日はたくさんのお話がありますので、ご家族同伴で受診されることをおすすめします。

退院後

退院日から約3週後に外来受診をしていただきます。このときはCT・MRI・レントゲン・採血・尿検査があります。外照射併用の場合、この日に開始日が決定されます。次回再来日まで自転車やバイク乗車など会陰部を強く圧迫する行為は避けるようお願いします。
治療後2ヶ月間は乳幼児・妊婦さんとの長時間の濃厚接触は避けるようお願いいたします。またシードが精液中に排出する可能性があるため、性行為は1ヶ月程度避けるようお願いいたします。
治療後1年間は「治療カード」の携帯をお願いいたします。万一治療後1年以内に何らかの理由でお亡くなりになられた場合、前立腺を摘出しなければならない規則となっていますので、ご家族の方は病院へのご連絡をお願いいたします。申し訳ございませんが、その際の輸送費などは患者さん負担となります。

治療成績

2015年末までに治療が行われ、2年以上経過観察が行われた1036名の患者さんにおいての治療成績は次のようになっており、他の症例数の多い病院と遜色のない成績となっています。

  5年非再発率 7年非再発率
低リスク 93.9% 91.9%
中リスク 92.7% 89.0%
高リスク 84.1% ----

長期の成績で非再発率の低下が見られますが、これは治療導入初期の症例に再発例が比較的多かったことによると思われます。治療経験・技術の進歩により、ここ数年での非再発率は95%以上と見込まれます。なお、本表の高リスク群の中にはトリモダリティー・通常治療の症例が混在しています。また、10年以上の長期経過観察が行われている患者数が非常に少ないため、10年非再発率の成績は表示しておりません。
以下にリスク別治療成績、癌特異的生存率、当院での手術を行った症例の治療成績のグラフを示します。

前立腺がんの低リスク、中リスク、高リスク別治療成績のグラフ前立腺がんの低リスク、中リスク、高リスク別治療成績のグラフ
癌特異生存率、全摘種手術の治療成績比較、全摘手術との治療成績比較のグラフ癌特異生存率、全摘種手術の治療成績比較、全摘手術との治療成績比較のグラフ

当院での全摘手術症例と比べて、生存率・PSAからみた再発率は、ほぼ同等の結果となっています。

スタッフ一同が治療に励んでいる様子の写真スタッフ一同が治療に励んでいる様子の写真

スタッフ一同、皆様のお力になれるよう、日々治療に励んでおります!!

担当医師紹介

林 成彦 略歴

1996年 横浜市立大学医学部卒 同附属病院研修医
1998年 大和市立病院医員
2000年 静岡県立こども病院医員
2001年 横浜赤十字病院医員
2003年 横浜市立大学大学院泌尿器病態学博士課程 
2003年 米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)泌尿器科
2003年 リサーチフェロー
2007年 横浜市立大学博士号、横浜南共済病院医長
2009年 横浜市立大学泌尿器科助教
2019年 横浜市立大学前立腺低侵襲治療センター講師

日本泌尿器科学会専門医・指導医
日本性機能学会専門医
がん治療専門医
泌尿器科腹腔鏡手術専門医
米国泌尿器科学会会員

論文

・林 成彦、他.限局性前立腺癌に対する密封小線源治療と全摘治療成績との比較検討—propensity score matchingを用いて—.2016年前立腺癌診療ガイドライン、泌外.2014;27:1247-50.

・Acute and late toxicities in localized prostate cancer patients treated with low-dose 125I brachytherapy (110 Gy) in combination with external beam radiation therapy versus brachytherapy alone (160 Gy).
Mukai Y, Hayashi N, Koike I, Kaizu H, Takano S, Sugiura M, Ito E, Sato M, Uemura H, Yao M, Hata M. J Contemp Brachytherapy. 2018 Oct;10(5):397-404.

・Outcomes of treatment for localized prostate cancer in a single institution: comparison of radical prostatectomy and radiation therapy by propensity score matching analysis.
Hayashi N, Osaka K, Muraoka K, Hasumi H, Makiyama K, Kondo K, Nakaigawa N, Yao M, Mukai Y, Sugiura M, Takano S, Ito E, Kaizu H, Koike I, Hata M, Taguri M, Miyoshi Y, Izumi K, Kawahara T, Uemura H. World J Urol. 2019 Dec 24.

・Ten-year outcomes of I¹²⁵ low-dose-rate brachytherapy for clinically localized prostate cancer: a single-institution experience in Japan.
Hayashi N, Izumi K, Sano F, Miyoshi Y, Uemura H, Kasuya T, Mukai A, Hata M, Inoue T.
World J Urol. 2015 Oct;33(10):1519-26.

・Outcomes of treatment for localized prostate cancer in a single institution: comparison of radical prostatectomy and radiation therapy by propensity score matching analysis World J Urol . 2020 Oct;38(10):2477-2484.

杉浦 円

2005年 東京女子医科大学大学院先端生命医科学研究所先端工学外科学修了
2010年 浜松医科大学医学部卒、大船中央病院研修医
2011年 横浜市立大学附属市民総合医療センター研修医
2012年 横浜市立大学附属市民総合医療センター放射線科後期研修医
2014年 横浜市立大学附属病院放射線科 指導診療医
2019年 横浜市立大学附属病院放射線科 助教

日本医学放射線学会 放射線治療専門医
日本がん治療学会 がん治療認定医
日本放射線腫瘍学会
日本コンピュータ外科学会

谷内 理紗

2015年 川崎医科大学医学部卒業 横浜市立大学附属病院研修医
2016年 横浜市立大学附属市民総合医療センター研修医
2017年 横浜市立大学附属病院放射線科 後期研修医
2020年 横浜市立大学附属病院放射線科 指導診療医

日本医学放射線学会 放射線科専門医
日本放射線腫瘍学会