IV おわりに

 今回,附属病院において発生した「薬剤ラベル貼り付けミス」及び「モルヒネ注射液の紛失」という事故は,職員の注意力が散漫であったことに加えて,医療におけるチェックシステムが機能しなかったという意味で,重大な事故である。幸い患者さんに被害はなかったが,附属病院の安全管理に対する市民の期待を裏切る結果となり,事故を起こした職員と管理職員の責任は大きい。

 このような事故の再発を防ぐためには,職員がその職務を自覚し,常に緊張感を持って業務を遂行することはもとより,事故は組織管理上の問題の結果でもあることを認識する必要がある。

 今回の事故の原因,改善策及びそれに対する見解は本論において詳述しているので,以下のことを提言しまとめとしたい。


1 薬剤部に対する提言

(1) 薬剤部の管理職員の果たすべき役割について

 薬剤部には,コミュニケーションの不足や,業務分担や配置換えに対する不満などの問題があり,管理職員の職場管理に適正ではない面があった。

 職場を管理する立場にある者は,部下の不満を把握し,問題の所在を明らかにし,次にその問題を解決するために率先して行動することが求められる。また,職員の責任意識を高めるための動機付けや緊張感を持続させるための工夫も必要であり,マニュアルを見直す際にも職員の参加を得て,職員の意見を取り入れた見直しが必要である。詳細なルールを作ったり,見直しが一方的で上からの押し付けであったりすると,事故直後は守られてもいずれはルール違反が日常化してしまう。

 薬剤部の管理職員は,職場管理の基本に立ち返り,職員が安心して業務に集中できる職場環境づくりに取り組むとともに,医療安全管理の徹底に努めることを強く要望する。

(2) 薬剤部職員の事故防止への取組について

 薬剤の全職員は,今回のミスが職員の不注意による確認ミスであることを真摯に受けとめなければならない。そのうえで,自らの業務の重要性に立ちかえり,日常の業務の安全管理に注意を払い,事故防止に全員参加で取り組むことを強く要望する。


2 病院の管理運営体制について

 II,IIIにおいて述べたとおり,薬剤部には職場としての問題があった。このことに対し,病院として,職場改善のための有効な措置がとられなかった。

 本学が推進している病院改革の一環として,病院長の権限強化のため本年4月から専任の病院長が就任するとともに,安全管理体制も整備された。こういった制度が十分に機能せず,事故が発生したことについて,病院長をはじめ病院幹部職員は率直に反省しなければならない。特に管理監督の立場にある職員は,このことを十分認識し率先垂範に努め,円滑で適正な職場運営を図ることを心から望むものである。

 今後は,病院長がリーダーシップを発揮できるよう,病院長を支える医学部をはじめ,大学全体のサポート体制も強化する必要がある。

 最後に,本報告書をまとめるにあたり多くの方々から貴重なご意見をいただいたことに対し,この場を借りてお礼を申し上げる。