NOBUHARU SUZUKI & RIKEN YAMAMOTO Seminar02 NOBUHARU SUZUKI & RIKEN YAMAMOTO Seminar02

研究セミナー特集

Seminar02 「開かれた大学と地域社会圏」 YCUスクエアの設計者と語る超高齢社会のまちづくり

開催日 / 2016年7月12日(火) pm6:00〜7:30
開催場所 / 横浜市立大学 金沢八景キャンパス YCUスクエア 1階ピオニーホール
講演 / 鈴木 伸治 研究科長 教授
ゲスト / 山本 理顕氏(建築家 横浜国立大学客員教授)

2. 都市社会文化研究家長 鈴木伸治教授による講演

鈴木伸治教授

Nobuharu Suzuki鈴木 伸治

鈴木伸治教授

横浜市立大学大学院 都市社会文化研究科長
東京大学大学院 工学系研究科都市工学専攻 助手
関東学院大学 工学部土木工学科 専任講師ー助教授を経て、横浜市立大学 国際総合科学部に。2013年より同教授。

都市計画、都市デザインを専門とし、横浜市内、神奈川県内などのプロジェクトに関わる。主な著書に、『創造性が都市を変える』(編著、学芸出版社)、『今、田村明を読む』(編著、春風社)など。

横浜市が直面している超高齢社会の実情

ここからしばらくは、私、本学大学院の都市社会文化研究科長を務めさせていただいている鈴木伸治がお話をいたします。そのあとで、先ほどお話しいただいた建築家の山本理顕先生と対談形式でディスカッションをしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

今や日本全国が高齢化していることは皆さんご存知のことと思いますが、この横浜も超高齢社会を迎えつつあります。そうしたことをふまえて地域社会の現状と課題、そして解決方法について論じていきたいと思います。

さて、後ろのスクリーンに出ている数字、100万と61万。これがなんだかわかる方はいますか? ピンと来る方はいると思いますが…。はい、これは横浜市の2025年の65才以上の人口が100万人、75歳以上の人口が61万人となる、という予測ですね。和歌山県の人口が約100万人です。鳥取県の人口が約50万人ですから、横浜市という市の器の中でそれだけの高齢者をかかえることになります。さらにその次にくるのが人口減少です。まだ先のことと思って深刻さが湧いて来ないかも知れませんが2060年には50万人以上減少すると予想されています。決して遠い未来ではなく2060年ですから今から44年後、みなさんが退職するくらいの頃かな、その頃にはひとつの市の中で、県の人口に匹敵する数の人口がいなくなってしまう、ということなんです。ある意味で、まちがスカスカになっていくということかもしれません。

セミナー写真1

こうした問題で注意すべきは、高齢者のなかでも単身者が増えてくるということです。現在でもお年寄りの一人暮らしが身近に見られるはずですが、これが2025年には20万人ぐらいになっているはずです。私たちは、まちづくりに関わっていますが、そういう社会がくるということをきちっと考えなくてはいけないということです。

実はこうした変化は既にスポット的に起きています。現在日本全体の高齢化率は26%ぐらいですが、これが30%以上にのぼる地域が横浜の南と西のエリアにいくつか存在しています。実はここ金沢区、栄区あたりの駅から遠いエリアですと、もう50%以上高齢化が進んでおり、非常に厳しい状況にあります。50%以上というと、地方の過疎化したエリアを想像すると思うんですが、横浜でも同様のことが起こっている。さらに金沢区、栄区、港南区では、人口の流出による人口減少すらおきています。こうした状況はこれから各地で起きてきますが、どうしてこうなってしまうのか?ひとつの原因はかつてのニュータウン開発の反動ですね。各地にあるニュータウン住宅を購入した世代の子ども世代は既に独立しており、まちを出ています。残された親世代が高齢化し、やがて人口減へという流れです。人工的に作られた街ですから、こうしたところから社会的孤立がうまれていきます。

こうした課題にどう立ち向かえば良いのか、まちづくりを学ぶものとしてはきちんとしたアイデアを持っているべきであると考えます。研究者はとかく全体で現象を捉えて理論化しようとします。しかしこの問題に対してそれは現実的ではありません。そこで私が考えるのは、個々のケースをきちんと捉え、全体の中でそのケースがどういった傾向にあるか、なにが原因でそうなったのかを把握し、解決法を探るということです。

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地域社会自体が変わって行かなくてはならない時代に

先ほど、横浜市ではスポット的に著しい高齢化がおきていると述べました。その多くはかつてのニュータウンであるということに触れましたが、大都市郊外に発生する超高齢化というのは、いずれも1960年代ごろに急速に人口を増やしたサラリーマン世帯のための住宅施設で顕著におきており、必然的にそうした住宅のあるところの高齢化率の数字は高くなってきます。私たちはそのひとつでもある、かつては横浜市の目玉プロジェクトとされたシーサイドタウンに並木ラボというのを作って、地域の人たちとともに話し合いを催したり、さまざまな体験講座を開催したり、大学生を集めてまちづくりのアイデアを出し合ったりと、いろいろな実験的活動を行っています。

こうした活動を地道に続けることで、いろいろな課題も見えてきます。よくいわれる解決策として都市部、首都圏の郊外部の、増え続ける高齢者をケアするために、地方から若い人たち、福祉や介護の雇用を吸い上げるようなかたちでやっていくという方法が語られますが、これをやってしまうと、地方も疲弊するし都市部もやがて疲弊していくだろうということです。

セミナー写真2

やはりこの問題はそれぞれの地域が自分たちで自立して、近隣に存在する郊外の過疎化といったことを防ぎ、自分たちで支えていく仕組みというのを考えなければいけないだろうと思いますね。そういう意味では、今、いわゆるソーシャルキャピタルの質的転換と表現していますが、地域社会そのもの、郊外の地域社会そのものが、やはり変わって行かざるを得ない。いままでの仕組みだけでは対応できない部分というのが、多々出てきてるわけです。一人暮らしの高齢者が20万人もいるような都市の中で、すべて社会福祉協議会や民生委員さんに任せるというのは現実的ではない、馬鹿げた話です。それはもう、すでに持続的ではないわけですよね。

そういう社会の仕組みと空間をセットで考えないといけません。ですからコミュニティーを支える仕組みを、そもそも再構築しなければいけない。現代というのはみなさんスマートフォンで、世界の裏側の事情までが手に取るようにわかるわけですよね。高齢者の人の中にもiPadとかスマートフォンといったIT機器を使いこなしながら、世界の情報を手にしている人がいるのだけれど、実は隣からの回覧板が回らなくなってしまっている、これが大きな問題なんです。つまり情報というのが二極化して、グローバルに状況を共有しているように思いながら、ものすごく狭域な情報というのは、もう共有できなくなっている、そういう時代に、やっぱりそこを変えていくっていうことも必要だろうと思います。超高齢社会をみんながうまく生きて行くためには、まずは自分の地元から、地道にコミュニケーションを取り続けること、ここからはじまるのではないかと思います。

では、このあとは再び建築家の山本理顕さんに登場していただき、進み続ける超高齢化や住宅の問題に対して、空間的にどのように対応すべきなのか、ディスカッションをしてみたいと思います。

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