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先端医科学研究センター 高橋琢哉教授 研究グループが、視覚障害動物における残存感覚機能向上のメカニズムを解明

平成23年2月24日
先端医科学研究課

横浜市立大学 先端医科学研究センター高橋琢哉教授の研究グループが、視覚障害動物における残存感覚機能向上のメカニズムを解明―発育環境がコミュニケーションの基盤となる感覚情報処理に及ぼす影響の分子機構解明―
〜『Neuron』オンライン版(米国東海岸時間2月23日正午付:日本時間2月24日午前2時付)に掲載〜

横浜市立大学先端医科学研究センター 高橋琢哉教授のグループは、視覚障害動物において体性感覚機能が向上する分子細胞メカニズムを世界で初めて解明しました。視覚は人間を含めた多くの動物におけるコミュニケーションにおいて中心的役割を果たしている感覚ですが、その機能が損なわれた場合にそれを補うように体性感覚、聴覚をはじめとした他の感覚機能が向上し、コミュニケーション能力が維持されることは広く知られていました。今回の研究において、1) 視覚機能の障害により、体性感覚野においてグルタミン酸受容体の一つである*1AMPA 受容体のシナプスへの移行が促進すること、2) 体性感覚野におけるセロトニンの増加がその過程を仲介すること、及びその細胞内シグナル機構、3) その結果体性感覚野の機能が向上すること、を明らかにしました。本研究はげっ歯類を用いて行われた研究ですが、この成果を将来的にヒトに応用していくことにより、ある感覚器を失った人々の残存感覚器の機能向上を増幅させる新薬開発の糸口になると期待されます。

※本研究は、2011年2月24日に発刊される米国科学雑誌『Neuron』に掲載されます。

※本研究は、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」、「科学技術振興調整費」などの助成により行われました。

研究の背景と経緯

我々の脳は外界からの刺激に応答して変化をしていきます。こうした脳の機能を可塑性と呼びます。神経細胞と神経細胞をつなぎ、神経細胞間の情報伝達の中心を担っている構造体をシナプスと呼びますが、ある神経細胞が活性化するとその神経細胞のシナプス前末端より神経伝達物質が放出され、別の神経細胞にあるシナプス後末端にある受容体に結合することにより情報が伝わります(図)。脳に可塑的変化が起こるとき、このシナプスにも応答が増強するといった変化が見られます。脳内シナプス伝達において中心的な役割を担っている神経伝達物質の1つがグルタミン酸であり、(*1)AMPA受容体はその受容体です。動物が新しいことを経験してシナプスに可塑的変化が起こるとき、このAMPA受容体がシナプス後膜に移動し、シナプスにおけるその数を増やすことによりシナプス応答が増強することはすでに明らかになっており(Takahashi et al. Science 2003)、AMPA受容体のシナプス移行が脳可塑性の分子基盤の一つであるというコンセプトが世界的に認められてきました。
視覚障害を持った人が時として異常に優れた聴力などを有することがありますが、この分子神経基盤は不明でした。横浜市立大学先端医科学研究センターの高橋琢哉教授らのグループは、AMPA受容体シナプス移行がこの現象の背景にあるという仮説を立てて研究を進めたところ、視覚障害動物の体性感覚野においてAMPA受容体シナプス移行が促進していること、この現象が(*2)セロトニンの分泌を介していること、およびその細胞内シグナルメカニズム、このような分子メカニズムを介して体性感覚機能が向上することを世界に先駆けて明らかにしました(図)。

研究の内容

本研究グループは、ウィルスを用いた生体内遺伝子導入法、電気生理学的手法を駆使し、視覚障害ラットの大脳皮質体性感覚野(ひげからの入力を受け取る*3 バレル皮質という大脳皮質領域)において、AMPA受容体シナプス移行が促進していること、視覚障害によってバレル皮質で分泌が増えたセロトニンおよびその受容体(5HT2A/C)によってこれが仲介されていること、セロトニン受容体の下流因子である*4ERK が活性化していること、ひげの機能が向上していることを明らかにしました(図)。げっ歯類におけるひげは社会行動、空間認知をはじめとした非常に多くの行動において視覚同様重要な役割を果たしていますが、視覚を失ってしまった状態においても、その機能が向上することにより障害機能を補うメカニズムが本研究により明らかになりました。

今後の展開

本研究は視覚障害動物の体性感覚機能向上の分子細胞メカニズムを明らかにしたものです。げっ歯類を用いた本研究を将来的にヒトに応用していくことにより、ある感覚器を失った人々の残存感覚器の機能向上を増幅させる新薬開発の糸口になると期待されます。

視覚障害により大脳皮質体性感覚野におけるAMPA受容体シナプス移行が促進する。これはセロトニン分泌の増加が仲介しており、最終的に体性感覚機能の向上につながる。

*1 AMPA受容体:グルタミン酸を神経伝達物質としたシナプスは、脳内情報処理の中心的役割を担っている。AMPA受容体はグルタミン酸受容体の一つで、神経伝達物質であるグルタミン酸が結合すると、イオンチャネルを形成しているAMPA受容体が活性化し、イオンが細胞内に流入する。このイオンの流入がシナプス応答になる。したがって、シナプスにおけるAMPA受容体の数が増えることによりシナプス応答が大きくなる。このようなシナプス応答の増強は記憶学習をはじめとした脳内情報処理の変化の中心的メカニズムであることが知られている。

*2 セロトニン:脳内の情報を伝える神経伝達物質の一つ。

*3 バレル皮質:ひげからの入力を受け取る大脳皮質体性感覚野の領域。

*4 ERK:タンパク質のリン酸化を引き起こすタンパク質。

本件に関する研究説明会について

本研究は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラム、科学技術振興調整費などの助成により行われました。そのため、2月15日(火)16時より、文部科学省にて本件に関する研究説明会を行います。

横浜市立大学先端医科学研究センター

公立大学法人横浜市立大学では、横浜市中期計画の「がん対策の推進」事業を行うため、免疫・アレルギー疾患や生活習慣病、がんなどの原因究明と、最先端の治療法、創薬など、臨床応用につながる開発型医療を目指した研究を行う先端医科学研究センターを平成18年10月に開設しました。現在、本学の持つ技術シーズを活用した最先端の医科学研究を行う22件の研究開発プロジェクトを推進し、研究成果を市民等の皆様へ還元することを目指しております。

URL: http://www.yokohama-cu.ac.jp/amedrc/index.html

お問い合わせ先

(本資料の内容に関するお問い合わせ)
大学院医学研究科 生理学 教授 高橋 琢哉 Tel 045-787-2577

(取材対応窓口、詳細の資料請求など)
先端医科学研究課長  室谷 洋一 Tel 045-787-2506

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