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大気中揮発性有機化合物の計測手法「プロトン移動反応質量分析法」の最新総説

2017.10.16
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  • 研究

大気中揮発性有機化合物の計測手法「プロトン移動反応質量分析法」の最新総説

~『Chemical Reviews』に掲載~

生命ナノシステム科学研究科 関本奏子助教、米国立海洋大気庁 地球システム調査研究所(NOAA Earth System Research Laboratory)化学領域Joost A. de Gouw, Carsten Warneke, Bin Yuanらの研究グループは、大気中揮発性有機化合物の代表的計測手法の1つである「プロトン移動反応質量分析法」の最新技術および様々な計測例を集約した論文を発表しました。この総説論文は、化学分野で最も権威のある国際学術誌「Chemical Reviews」に掲載されました。

研究の背景や内容

私たちを取り巻く大気の99%以上は主に窒素や酸素、二酸化炭素、水蒸気などから構成されますが、残りの1%未満には、数千種類にも及ぶ揮発性有機化合物(volatile organic compound; VOC)が含まれています.VOCは生物起源(呼吸などの生命活動)あるいは人為起源(車や工場の排ガスなど)から放出されますが、VOC1つ1つの大気中濃度は、ppb(10億分の1)あるいはppt(1兆分の1)レベルという極めて低いものです。しかし、VOCは大気中で様々な化学反応を起こして大気汚染物質(例えば対流圏オゾンやエアロゾル)の生成を促し、環境や気候変動に多大な影響をもたらします(図1)。よって、VOCの大気中挙動(どのように発生し、どこに輸送され、輸送中にどのような化学反応を経て何に変化し、最終的にどのように消えていくのか)の把握は、近年の大気化学の重要な課題となっています。
図1. VOCの発生から大気汚染物質の生成まで
極微量の大気中VOCを計測するための代表的手法の1つが、プロトン移動反応質量分析(proton transfer reaction mass spectrometry; PTR-MS)法です(図2)。本法では、オキソニウムイオン(H3O+)からVOCにプロトンが移動することで生成するVOCのプロトン付加分子(VOC・H+)を質量分析します。PTR-MS法はppt〜pptレベルの様々なVOCのリアルタイム計測が可能なため、1990年代に考案されて以来、大気化学における環境分析をはじめ、医学・農学での呼気分析・食品分析に頻繁に使われ、技術改良も盛んに行われてきました。本総説では、過去10年で開発・改良されてきた技術*1と共に、自動車の排ガス、バイオマス燃焼、森林地帯、石油・天然ガス、(酪)農場、海洋から発生するVOC計測例を集約し、紹介しています。
図2. プロトン移動反応質量分析法(PTR-MS)の概念図(掲載論文中Figure 1を改変)
近年のPTR-MS法の発展はめざましく、今後もさらに応用範囲が広がっていくと予想されます。本総説が、大気化学・医学・農学等の様々な分野の発展に寄与できることを期待しています。
本研究は、(独)日本学術振興会 海外特別研究員制度の一環で行われました。

*1:PTR-MSで計測される500種類以上のVOCの一斉定量法。研究の詳細は、以下の参考論文に記載されています。
Calculation of the sensitivity of proton-transfer-reaction mass spectrometry (PTR-MS) for organic trace gases using molecular properties
Kanako Sekimoto, Shao-Meng Li, Bin Yuan, Abigail Koss, Matthew Coggon, Carsten Warneke, Joost de Gouw
International Journal of Mass Spectrometry, 421, 71-94 (2017).
DOI: 10.1016/j.ijms.2017.04.006

掲載論文

Proton-Transfer-Reaction Mass Spectrometry: Applications in Atmospheric Sciences
Bin Yuan, Abigail R. Koss, Carsten Warneke, Matthew Coggon, Kanako Sekimoto, and Joost A. de Gouw
DOI: 10.1021/acs.chemrev.7b00325
Publication Date (Web): October 4, 2017
(この研究に関するお問い合わせ先)
横浜市立大学 大学院生命ナノシステム化学研究科 助教 関本奏子
TEL:045-787-2216
E-mail:sekimoto@yokohama-cu.ac.jp
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