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研究セミナー特集

Seminar01

細胞内磁気ピンセットで探る細胞骨格の動力学 微小菅星状体構造の駆動力を細胞内で直接測定した実験と導かれたもの

2017年7月31日(日)開催  
会場:本学 理学系研究棟1階118室(会議室)

● 講演 : ジャック・モノー研究所:谷本博一博士
● 招聘コーディネーター教授:横山崇教授

谷本博一博士による講演

谷本博一氏

谷本 博一氏

谷本博一氏

東京大学大学院理学系研究科で物理学を専攻、生命現象を細胞内部のレベルから研究する佐野雅己教授の研究グループに所属し、学位を取得。その後ノーベル生理学医学賞を受賞者の名を冠したフランスのジャック・モノー博士研究所博士研究員へと転身。生命現象をナノレベルで捉え、細胞運動の物理的なメカニズムを研究。本セミナーでも語られているように、研究に必要な測定の精度を重視し、実験結果を揺るぎない理論へと昇華すべく、研究を続ける。

細胞内磁気ピンセットで探る細胞骨格の動力学

皆さん、こんにちは。ジャック・モノー研究所の谷本博一です。本日はよろしくお願いします。私はもともと東大の物理出身で佐野雅己教授の研究グループで細胞運動の物理法則の研究を行っておりました。4年半ほど前になりますが、この分野で世界でも最先端の研究をしているといわれる、フランスのジャック・モノー研究所に赴く機会に恵まれ、現在ではその所属研究員として、生物物理学の研究、特に細胞運動の物理法則や細胞の応力場の空間構造の解析といった研究を進めています。だいぶデータも蓄積され、研究成果も上がってきたと思います。そこで、今日は私たちが今行っている最新のデータなどを見ていただこうと思い、準備してまいりました。自分達でやっている研究をスクリーンで見ていただいて、実際のデータを元に少し広い観点から生物物理とは何か、これからの研究者にとってどういうことが必要になってくるか、そうしたことを議論していただけたらと思います。

セミナー写真1

生物物理学の定義と目標

ところで、ご存知の方も沢山いらっしゃると思うのですが、いま私が手にしているのは私自身が大学の学園祭の時に初めて読んだ生物物理学の教科書です。著者は大沢文夫先生という方で生物物理の権威として一番有名な方かもしれません。この教科書にも書いてあるのですが、生物物理学とは「生物学として面白く、かつ物理学として面白い」研究とするべきで、同時にそれは非常に困難な目標である、といったことが書かれています。おそらくここが最も大事なところで、我々一人ひとりは常に今やっていることが「物理学」なのか「生物学」なのかということを考えてしまう訳なのですが、あくまでも対象に密着して研究し、時々この困難な目標のことを意識するという姿勢を持たなくてないけないんだろうな、というふうに思います。今日も生物の実験データを紹介させていただきますが、皆様方もぜひ物理の観点からどう思うか。こういうことをやったら面白い、など、思いついたことを言っていただけたらと思います。

セミナー写真1

分子の階層と生命現象における「力」とは

セミナー写真3

私自身は、生命元素の力学的な側面、物理学的な側面に興味を持って研究しています。生物物理学をやっていますと、それは生体力学のこと?など、いろいろな言われ方をすると思うのですが、現在のところ具体的にどういうことがわかっているかと言いますと、まず一つは分子の階層です。分子の階層における「生命」と言われているのものが、90年代に初めて光ピンセットという技術を使って、単一タンパク質分子の動力学が調べられましたが、現在では同じような一分子レベルでの力学測定が細胞の中で精密にできるようになっており、数値データ化も進んでいます。

セミナー写真2

スクリーンに映っているのは、細胞が分裂する時に細胞が外側にかける力を測定したデータです。ご覧の通り2つの細胞が右と左に、今まさに分かれようとしているところです。非常に強い力を出して分裂を実現しているということですね。この細胞の階層で一つひとつの細胞がどういう力を出して、そのことによって自分の状態をどう制御しているのかということが詳しく調べられています。

そして、同じようなアプローチがより大きなスケールで行われており、このスクリーンでの例はハエの羽なのですが、組織や個体といったスケールで測定されています。これはカンパネで細胞の間にかかる力を測定した推計したデータなのですが、このように組織レベル、または個体レベルで、「力」というのはどういう生命現象であり、どういうかかり方をしているのかが解明されつつあります。

分子の細胞の間のスケールで起こっていること

また、分子の細胞の間、倍率にして10万倍ぐらいのものなのですが、このスケールにおける力学的な物理学というものがあります。実は生物の細胞の中で起こっていることのほとんど全ては、この分子と細胞の間のスケールで起こっています。例えば紡錘体というのがあります。紡錘体という構造は染色体DNAを2つの細胞に分けているわけなのですが、このDNAを二つの細胞に分割する時にどのくらいの力が必要なのかですとか、そうしたことが調べられていて、そのスケールにおいては多くのことがわかっています。この2つは両方ともアクチンという骨格を使って力を生成していて、細胞の中でアクチンがこういう構造を取って、ストレスファイバーと呼ばれているものによって力を及ぼしています。ところが、その1本1本がどういう風に細胞スケールまたは組織スケールの力を生成しているのかなるとほとんどわかっていません。このように一つの生命現象の力学を意識するということは、スケールごとでの疑問に繋がっていきます。細胞生物学的なスケール、分子と細胞の間の力学。それらを解学したい。長い目標としてはそのことによって分子と細胞を繋げたいというのが、私の目標となっています。

ウニを使った実験に見る「微小管と星状体」の不思議

セミナー写真3

さて、これは実験シーンの動画ですが、これについて説明します。今ウニの雄と雌がいて、これは雄です。雄に高濃度の塩を注射しています。そのことによって雄から精子を回収しています。ウニは死にかけると子孫を残そうとして精子と卵子を放出します。同じように雌の個体を殺して卵子を回収しています。海水において卵子は1日ぐらい、精子は1週間ぐらい持ちます。今映像では標本をスライドガラスの上に卵子を置いたところです。だいたい卵子の大きさは100ミクロンぐらいなので、そんなに高性能の顕微鏡でなくても観察できます。その卵子に精子を混ぜて、精子が泳いで今、卵子をみつけたとする、とこれがいわゆる受精となるわけです。最初の1細胞がここで2つに分かれるのがわかると思うのですが、これが2細胞。最初からここまでに1時間くらい、ここから先は約30分ぐらいで進んでいきます。さらに卵子に入れるのが最初の精子なので、最初の精子が入った瞬間に卵子にバリアができ、外側の精子は残される、という感じですね。

セミナー写真3

セミナー写真3

先ほどタイトルでお見せした図は、受精直後のヨーロッパムラサキウニといわれる種の受精卵の受精直後の図から5分間隔で撮影したものです。緑が微小管、赤がDNAです。あとでもう1度微小管について説明します。これは受精直後の写真です。精子は頭にDNAが入っています。精子の頭だと思ってください。緑に見えているのが精子の尻尾です。精子は微小管で出来ている尻尾を動かして泳いでいます。なのでこれは受精直後の写真で、頭は細胞の中にあって、卵細胞の中にいて、尾っぽが外側に出ています。次に受精から5分経った段階でこの緑色の構造から赤い頭が成長しているのがわかるかと思います。ここに私たちが研究対象にしている微小管星状体microtubule asterと呼ばれる構造です。この構造は成長していく、広がっていくだけではなく、細胞の真ん中に向かって進んでいくのがわかります。10分後にはさらにこの構造が大きくなってさらに真ん中に進んで、大体15分ぐらいで完全に細胞の中心まで行きます。そして成長して細胞全体を覆い尽くします。これが微小管星状体の中心化といわれている現象です。微小管というのはいわゆる構造分子です。その一つ一つはタンパク質だと思っていただいて、一つがチューブリンと呼ばれるものです。そのチューブリンがたくさん生体内で重合することによって長い、細胞スケールが100ミクロンぐらいの高分子構造を取ることができます。いわゆる細胞骨格と呼ばれているもので、他にも有名なアクチンなどがあると思うのですが、DNAと比較して生体高分子として比較して微小管が最も硬いと思われます。生体の文脈では微小管というのは大体硬い構造を作ります。先ほどの染色体を引き剥がすのとか、今の真ん中から放射状に広がって細胞を硬くするなど、そういう基本的な動きの足場のようなものを作るのに使われています。ここでひとつ大事なことは、微小管は極性を持っているということです。なぜならば一つ一つの構造的な意味の極性で、一つ一つのチューブリンがマイナス管プラス管で分けられます。これはマイナス管プラス管マイナス管プラス管という風に繋がっているので、全体としてグローバルな極性と言えます。少し単純化していいますが、微小管はプラス管の方向にだけ向いています。私たちが興味がある星状体では真ん中に精子があります。精子の中にセントゾーンと呼ばれる微小管の集合を開始する物質があります。そこにマイナス管があって、そこから外側に向かって伸びていって、星状体の外側にプラス管があるという状況です。この星状体というのは非常にありふれた構造で、私たちの体を構成している細胞の一つが一つずつ持っているものです。しかも星状体の細胞の中の位置というのが非常に重要で、星状体がどういう風に動いて細胞内で自分の機能的な配置を実現するかということは今盛んに研究されていることです。

セミナー写真4

なぜわざわざウニでやるのかということなのですが、一番大きな理由は非常に昔から研究されている生き物だということです。ウニって聞くと少しびっくりするかもしれませんが、1800年代から顕微鏡で色々な生物の観察をするような状況があったのですが、その時に筋がいいとして選ばれたのがウニでした。ウニはそこから100年ぐらいずっと形態学、顕微鏡で観察され続けているような状況で、数多くのデータがインプットされています。また、これは大豆の映像ですけれど、先ほどのDNAを染色することで星状体の位置を追跡することができます。このような大豆の実験はあとでお見せしますが、大豆もウニと同様によく使われます。昔から形態学、細胞生物学の実験で使われるものは非常に頑丈でありデータの再現性がよく、そもそも力学的な測定に適している、といったことがあります。今日もいくつか力学測定したデータを見ていただくのですが、それは結局のところ、ウニの受精卵の特徴、利点をうまく生かした実験ということでもあります。