「医療事故防止のための病院総点検の日」にあたって

平成12年1月11日  
横浜市立大学学長 加藤祐三  

 平成11年1月11日の患者取り違え事故から1年が経ちます。事故を深く反省し,再発を予防するため,毎年この日を「医療事故防止のための病院総点検の日」としました。本年は,1月5日から11日までの1週間を「市大附属病院事故予防週間」と定め,附属病院長の下で事故予防委員会が中心となり,附属病院の各部署で実施してきた事故予防の諸方策の総点検を行いました。この総点検の日に当たり,これまでの主要な経緯をたどり,覚悟を新たにしたいと思います。
 私たちは,医療事故発生後直ちに,事実確認,原因究明,及び事故防止のための緊急対策を実施するため,1月14日に「事故対策委員会」を学内に置き,1月21日に「事故調査委員会」を横浜市に設置しました。「事故調査委員会」の報告書は3月22日に公表され,「事故対策委員会」の「中間とりまとめ」をその2日後に公表しました。
 事故の事実と直接原因の究明及び予防対策を明らかにした3月の「中間とりまとめ」に引き続き,学内にさらに「病院改革委員会」を設置して,抜本的な病院改革に向けての方針を立てることとし,4月に医学部長を委員長として発足させました。学部長,病院長,看護短大部長,独立大学院の研究科長,看護部長などの参加を得て,全学を挙げて検討を重ね,「病院改革委員会報告書」を9月に発表しました。
 病院改革委員会報告書は,(1)病院長の専任制,(2)副病院長の設置,(3)病院管理会議の設置,(4)医療安全管理部門の設置などを柱とした内容になっています。大学としての自治能力を発揮し,学内の真剣な議論を経てまとめましたが,それが限られた学内の視点であるため,欠落部分もあるはずです。
 そこで,外部の方々から公正で客観的な評価をいただくため,10月に「病院改革に関する外部評価委員会」を設置,猿田享男慶應義塾大学医学部長,評論家で作家の柳田邦男氏など7名の委員にご就任いただき,広い視点からのご意見・ご批判をいただきました。本学が作成した病院改革案が独りよがりの改革で終わることがないようにしたいという願いからです。評価の基礎資料としては「病院改革委員会報告書」を基にした「病院改革自己点検・評価報告書」を作成,これに基づいて3回の委員会でご批判をいただきました。委員会は12月に終了し,1月中には「外部評価報告書」が公表される予定です。
 一方,院内においては,昨年4月に発足した事故予防委員会がインシデント・レポートの収集と事故予防策の強化に取り組んできましたが,この作業と知恵を継承して,いよいよ病院安全管理部門が始動します。これまでも,昨年秋には医療安全国際セミナーを開催し,今日また総点検の日に医療安全セミナーを開くに至ったことは,これまでの事故予防委員会の蓄積を総括し,現場に戻して,事故予防を徹底させる重要なステップになるものと認識しています。
 本学医学部の附属病院は,附属病院(金沢区福浦)と附属市民総合医療センター(通称:市大センター病院 南区浦舟町)の2病院があり,教職員総数が約2,500人という大人数です。改革の必要性を一部の幹部だけが認識しているのでは,実質的な意味を持たず,空振りに終わります。
 今後,病院改革案を外部評価委員のご指摘を受けて修正し,それを名実ともに現場のすみずみで実行に移すのは,まさにこれからです。医療従事者の真剣な意識改革が必要です。それによって横浜市立大学医学部附属病院は,「市民が心から頼れる病院」になれるものと信じます。

※ また,附属病院では,今回改めて病院教職員に向けて別紙のとおり通知を出し,事故防止の周知徹底をいたしました。

≪別  紙≫

  教職員各位

平成12年1月11日  
                  横浜市立大学医学部附属病院長  

「医療事故防止のための病院総点検の日」にあたって

 附属病院では昨年1月11日に,患者取り違え事故を起こしました。その後,二度とこのような事故を起こさない決意の下に事故予防対策を含めて大学をあげて病院改革に取り組んできました。また,病院改革を推進するため,外部評価委員による評価を受けているところです。
 附属病院は本日で医療事故後1年が経過しますが,医療事故を風化させないため,毎年1月11日を医療事故防止のための病院総点検の日にすると昨年誓いました。
 そのため,1月5日から11日までの1週間を事故予防週間と定め,この1年間の取り組みを踏まえ,改めて各部署に総点検を指示しました。
 病院では医療の安全管理のために「事故予防マニュアル」を作成したところですが,各部署のリスクマネージャーは,関係部署との連携のもと一層の改善策などについて常に意見交換を行い,「安全管理チェックリスト」を作成し,医療事故防止に向けた総点検を行うよう改めて指示します。
 事故を起こさないための努力は,常日頃の業務を通して継続して行わなければなりません。市民に信頼される大学附属病院として再生するため,教職員の一人ひとりの自覚とコミュニケーションが不可欠です。今後とも着実な努力をお願いします。