資料5　今回の医療事故に関する再発防止策についての自己点検・評価

資　料　5

　　　今回の医療事故に関する再発防止策についての自己点検・評価

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平成１１年１０月２２日

１　事故後の緊急対策及びその補足事項と新たな再発防止策
　事故後の緊急対策及びその補足事項と新たな再発防止策については，資料６のとおりで，既に
　実施済みである。

２　主治医の役割・責任の明確化とグループ制の見直し
（１）事故発生時の状況
　　　　外科治療を1人の医師で行うことは困難であるため1人の患者に複数（２～６人）の担当
　　　医が分担して治療にあたり，主治医（担当医グループの責任者）が担当医を統括する体制が
　　　多くとられていた。この体制下では主治医が1人の患者と接触する機会が少ないため，詳細
　　　を把握しにくく，また患者から誰が責任を持つ医師であるかわかりにくいという欠点があった。
　　　　患者の不安除去，不測の出来事に対する対応のために，手術当日，術前の患者訪問や麻導
　　　入時の立会いを行うという教育はされていたが徹底が十分ではなかった。また，患者確認の
　　　必要性と重要性についての教育も十分に行われていなかった。
　　　　手術当日，主治医及び他の担当医により，ほとんどの科で術前の患者訪問が行われていた
　　　が，手術室における麻酔導入時には，主治医又は他の担当医が立ち会う場合には，外科医が
　　　立ち会わない場合があり，必ずしも主治医の立会いが明文化されていなかった。

（２）現状（再発防止策の実施状況）
　　・患者と主治医が１対１の関係となるように従来の担当医グループを分割し主治医を１名と
　　　している。
　　・患者，家族への対応は主治医が行い，患者の治療も主治医が中心となって行い，他の医師は
　　　これを補佐することで役割を明確にした。
　　・手術についての説明は術者が行い，主治医が術者でない場合は説明の場に同席することにし
　　　た。
　　・執刀医グループには必ず主治医が加わることになった。
　　・入院に際し，主治医本人が，主治医であることを患者，家族に告げ，ベッドネームに主治医
　　　名を明確に記載している。

　　　上記の対策が今後ももれなく実行されるように，また，さらに改善点が今後もあればこれ
　　を実行すべく定期的な全員参加の検討会や病棟婦長との話し合いを行っている。また，病棟
　　の責任者やリスクマネージャーが対策の実施状況を定期的にチェックしている。

（３）今後の課題
　　　上記の対策が今後も十分に実行されていることに加え，
　　ア　診療科に所属する医師すべてが「患者本位の治療を行う」という共通の認識をより一層持
　　　つように教育と自己努力を行う。

　　イ　関連する各部門との間に正確かつ，より円滑な情報伝達，意思の疎通が行われるような，
　　　より良好な環境を作っていく。

３　術者と執刀医グループの役割・責任の明確化

（１）事故発生時の状況
　　　　手術についての主たる責任と権限は術者が持つが，手術助手が術者より高い職位である場
　　　合は高職位の助手が責任と権限を持つとの共通の認識はあったが，明文化されておらず，
　　　個々の医師間で認識の差があった。
　　　　手術室においては，患者の情報及び発生した疑問は正確に伝えられ，十分な意見交換の後
　　　に処理解決されるべきであるが，執刀医グループ医師，他の部門の医師，看護婦と術者ある
　　　いは責任ある医師との間にこれが十分に行われていない状況があった。

（２）現状（再発防止策の実施状況）
　　　　執刀医グループにおける責任者は術者であるが，術者より高い職位の医師が手術助手の場
　　　合，この医師が責任者となり権限をもつことを再確認し，責任者に対し，正確な情報が伝達
　　　されることを徹底させている。
　　　　チームを構成する各部門が患者の治療目標に関し共通の認識をもち，疑問点を術前に解決
　　　しておくとともに，各部門間の円滑な情報伝達，意志の疎通を行うよう努めている。心臓手
　　　術では，毎週手術患者の治療に関する術前カンファランスを執刀医グループの医師，麻酔医，
　　　手術室看護婦，病棟看護婦が参加して行っている。

（３）今後の課題
　　　上記の対策が今後も十分に実行されるべく努力していくことで，事故教訓を風化させず
　　ア　手術にたずさわる医師すべてが「患者本位の治療を行う」という共通の認識をより一層持
　　　つように教育と自己啓発の機会を持つ。

　　イ　関連する各部門との間に正確かつ，より円滑な情報伝達，意志の疎通が行われるような，
　　　より良好な環境を作っていく。

４　麻酔科医の教育・管理体制及び診療体制の見直し
（１）事故発生時の状況
　　ア　患者確認
　　　　術前回診は，麻酔科医が行う場合と，研修医だけで行う場合とがあった。また，術前の患
　　　者確認の視点に基づいた具体的方法を確立していなかった。

　　イ　術中の危機管理体制の確立
　　　　手術室における麻酔科の統括責任者（インチャージ）に，個々の手術室内で生じた，異常，
　　　疑問については必ず報告することになっていたが，今回の事故ではこれが適切に機能しなかった。

　　ウ　麻酔科の診療体制
　　　　麻酔は，麻酔科医が直接担当する症例と，研修医が麻酔科医の指導のもとに担当する症例
　　　とがあった。また，術前回診は麻酔科医と研修医が一緒に行う場合と，特別な合併症などの
　　　ない症例では研修医だけが行い指導医がチェックするというケースがあった。

　　エ　研修医教育
　　　　臨床麻酔の教育には努力していたが，術前の患者確認については指導が十分でなかった。
　　　指導書としては当麻酔科編集による「麻酔科ハンドブック」を用いていたが，事故防止に関
　　　しては一般的記述のみで特別な「麻酔科事故防止マニュアル」は整備していなかった。

（２）現状（再発防止策の実施状況）
　　ア　患者確認
　　《１》　術前の患者確認
　　　　　　麻酔科医は術前回診を行う。この際，「患者識別バンド」に記入された氏名，患者の足
　　　　　底などに記入された氏名を確認し，あわせて患者の身体的特徴を麻酔記録に記載する。患
　　　　　者から麻酔同意書の提出を受ける。
　　《２》　手術室における患者確認
　　　　　・担当麻酔科医はハッチウェイで患者を出迎え，病棟看護婦・士から手術室看護婦・士へ
　　　　　　の患者引継に立ちあう。この際，患者に氏名を言ってもらう，「患者識別バンド」の確
　　　　　　認，足底などに記入された氏名の確認，身体的特徴の確認，などの複数の方法により患
　　　　　　者確認を行う。
　　　　　・手術室への入室後，麻酔導入前に主治医とともに患者確認を行い，あわせて血液型の照
　　　　　　合を行い，「手術室における患者確認書」にサインする。
　　　　　・以上の確認が終了してから，麻酔導入を行う。

　　イ　術中の安全管理体制の確立
　　　　　・個々の手術室内で生じた異常，疑問については必ずインチャージに報告する。
　　　　　・インチャージは担当医と問題解決をはかり，必要なら他の専門医の意見を求めるとともに，
　　　　　　手術室全体からその事態を点検する視点を持つ。
　　　　　・疑問が解決されないうちは，次のステップに進まない。

　　ウ　麻酔科の診療体制
　　　　　・麻酔は麻酔科医が責任を持って担当する。研修医が一人で麻酔導入を行うことはしない。
　　　　　・術前，術後回診に際しては，回診した旨をカルテに記載する。
　　　　　・上記安全管理体制を確立する。

　　エ　研修医教育
　　　　　・研修医の指導にあたっては，患者の安全を最優先とし，これを基本として研修プログラム
　　　　　　の目標達成を目指す。
　　　　　・臨床麻酔においては日本麻酔学会の認定を受けた麻酔指導医が研修医の指導を行う。

　　　　　以上の項目を麻酔科医全員がもれなく行うため努力しており，達成されている。
　　　　「麻酔科事故防止マニュアル」を含む「麻酔科マニュアル」を作成，これに基づいて麻酔
　　　　科医，研修医の教育，指導を繰り返し行い，患者取り違えを含むあらゆるミスによる事故の
　　　　発生を防止すべく努力している。

（３）今後の課題
　　ア　今後なお発生しうる人為的事故としては，薬剤，その投与量の誤注射，ルートの間違い，
　　　輸血の取り違え，左右など手術部位の間違いなどが考えられる。現在，注射器へのラベリン
　　　グやダブルチェックなど種々の対策をとっているが，これらを完全に防止する方法はなく，
　　　常に注意を喚起する以外にない。各科や事故予防委員会などと協力して防止対策に取り組む。

　　イ　術中の安全管理については，大災害が発生した時の麻酔中の患者への対処に関して，マニ
　　　ュアル等の整備を行う。

　　ウ　術前回診については，麻酔医と患者との接触の機会は，夜間の緊急手術が重なった場合な
　　　ど困難な場合もあり，それらのケースにおいては情報の提供や患者確認に関して主治医の協
　　　力が今以上に求められる。今後，このギャップをどう埋めるか各科と検討する必要がある。

５　手術室の管理運営体制の確立

（１）事故発生時の状況
　　ア　患者の取り違えを起こしかねない患者移送，引き継ぎの運用システムであった。
　　　・多くの手術が並列に同時刻にスタートする状況があった。その中には同一病棟の複数の手
　　　　術が同時刻にスタートする状況があった。
　　　・１人の病棟看護婦が２人の患者を同時に手術室に移送していることが過去にもあった。
　　　・患者とカルテを別々の窓口で引き渡し，別々に手術室に移送していた。

　　イ　引き継ぎおよび手術室での患者確認が不備で，カルテと本人への呼びかけ以外に客観的な
　　　患者確認方法がなかった。
　　　・申し送り時の患者識別の方法が不備であった。
　　　・麻酔科医による患者確認が不十分であった。
　　　・手術室で麻酔導入前に主治医が患者に立ち会うことが徹底されておらず，主治医の立ち合
　　　　いなしに麻酔を開始することもあった。
　　　・主治医（もしくは執刀医）による手術前の患者確認が不十分であった。
　　　・手術室入室，麻酔導入時，体位変換時，手術開始時など，それぞれのステップで「誤って
　　　　いるはずはない」と思い込んでいた。「誤っていることも有り得る」ことの指導・教育が
　　　　不十分であった。

　　ウ　手術室内の管理運営を行う手術部医師，日勤責任麻酔科医，手術室婦長，日勤責任看護婦
　　　の役割と責任が以下の点で曖昧であった。
　　　・手術室入室，患者引き渡しの際の患者確認
　　　・麻酔科医の麻酔導入前の患者確認
　　　・主治医・執刀医による麻酔導入前の本人確認

　　エ　手術室での種々の疑問点を統合的，横断的に把握する機能が不十分であった。
　　　・別々の手術室で起こっていることや，疑問点が出ていることを手術室全体の問題としてと
　　　　らえる発想が欠如していた。

（２）現状（再発防止策の実施状況）
　　ア　患者の移送，手術室への入室及び麻酔導入までの患者の安全と確認の指導，徹底を図る。
　　　現在，これらの再発防止策はすべて実行に移され厳守されているが，今後も各ステップで未
　　　確認事項のないよう指導と監視を続けていく。

　　　・同時刻に開始する同一病棟患者の手術では手術室への入室時間に時間差をつけることを
　　　　指導している。そのため，同一科同一病棟の複数の患者が同一時刻に入室することは現在
　　　　ない。
　　　・病棟から手術室へ，入室から退室まで患者ひとりの移送および引き継ぎにつき，ひとり以
　　　　上の看護婦・士及び主治医もしくは麻酔科医の付き添いの原則を徹底するよう注意を払っ
　　　　ている。
　　　・患者とカルテ類とが離れることのないよう，患者，カルテ類ともにハッチウエイで引き継
　　　　ぎ，一緒に手術室に移送する原則を指導，徹底している。
　　　・ハッチウェイでの引き継ぎの際に病棟看護婦・士，手術室看護婦・士，麻酔科医による患
　　　　者確認が行われるよう指導，徹底している。
　　　・手術前，麻酔前の最終患者確認のため，「手術室における患者確認書」を作成し，主治医
　　　　（もしくは執刀医）と麻酔科医に確認のサインをさせることとした。手術室内で麻酔科医
　　　　と主治医は患者確認を行い患者確認書にサインした後に麻酔，手術を開始するよう指導，
　　　　徹底している。
　　　・麻酔科医，執刀医が患者の確認に疑問を持った場合には，その疑問を解決するまでは新し
　　　　い段階に進まず，その疑問を手術部医師，手術室婦長，日勤責任麻酔科医，日勤責任看護
　　　　婦に連絡するよう指導している。このようにして情報の集約を図り，生じた問題に関する
　　　　情報が直ちに手術部の管理者に伝わり，立場をかえた見方が問題の解決に導入されるよう
　　　　にしている。

　　イ　病院改革委員会の報告を受けて，手術部医師が行う患者の安全管理に対する役割を明確に
　　　　して手術部の機能強化を図っている。

　　　・手術室での患者の安全の確保と円滑な手術が行われるように問題点の解決に努め，各科，
　　　　看護婦その他を指導，監督している。
　　　・手術医療機器が安全に使用されているかどうか監視，指導している。
　　　・手術患者の周術期安全のため，各科との調整を図り，また各科関係医師及び医療従事者を
　　　　教育している。
　　　・手術部門の運営に関する事項を検討するため，手術部門運営委員会を設置しているが，こ
　　　　の委員会を活性化させ隔月に定例開催し，手術部の運営について広く論議するようにして
　　　　いる。決定事項は臨床部長会及び各科代表者会議に報告し，院内に周知している。また毎
　　　　週開催している手術スケジユールの調整を行う手術室調整会議を手術部門運営委員会の
　　　　下部組織と位置付け，懸案事項の検討や連絡事項の伝達に活用している。

（３）今後の課題

　　ア　定時手術の予定上において同一科の同時刻の複数の並列手術が出来るだけ行われないよ
　　　　うに手術症例の分散平均化を図ることが必要だが，各科の週間予定の都合もありなかなか
　　　　難しい。定時手術申込における各科の協力が得られるよう，より一層の努力をしていく。
　　イ　病院全体の診療業務，病棟看護業務の円滑化のため，あらかじめ各科に配分された手術室
　　　　使用枠を固定することなく，常に見直しを進めていく。そのため，手術部門運営委員会，
　　　　手術室調整会議を活用して院内調整を図っていく。
　　ウ　手術部の情報集約と患者の安全のための管理機能の強化のため，より一層の各科の理解と
　　　　協力を求めていく。またさらに良いシステムを目指して推進する。
　　エ　今回の事故を風化させず，疑問を感じたら常に原点に戻り再確認を行うよう，手術室の運
　　　　営および安全性の確保の立場から教育，指導を図る。

６　手術室及び病棟の勤務体制の見直し

（１）事故発生時の状況
　　ア　手術室
　　　　８時３０分からの手術予定患者を受け入れる看護婦・士の数に無理はなかったが，誰がハ
　　　ッチウェイを操作するかなどの決まりがなかった。

　　イ　外科病棟
　　　　当日の手術スケジュールは，同一部署から同時刻に３件組まれていた。
　　　　深夜勤務者は３人で，そのうちの１人の看護婦・士が３人の患者を移送することになった。　

（２）現状（再発防止策の実施状況）
　　ア　手術室
　　　《１》同一病棟よりの複数患者の手術は開始時間を１０分ずつずらすことを徹底し，同一時刻
　　　　　　に入室することは現在はない。
　　　《２》２台あるハッチウエイの左右にそれぞれＡ，Ｂと表示し，ハッチウエイを入って左側に
　　　　　　ある１０，１１，１２番手術室を使用するときは，必ずハッチウエイＡを使用し，Ｂは
　　　　　　使用しないこととした。このことを徹底するため患者誘導を担当する看護婦・士を１名
　　　　　　配置した。
　　　《３》ハッチウエイの操作は当該手術を担当する手術室看護婦・士が行うことを徹底した。
　　　《４》ハッチウエイで患者を確認（患者識別バンド，足底に書かれた氏名，患者に氏名を言っ
　　　　　　てもらう）後，病棟看護婦・士と手術室看護婦・士が，ハッチウェイ上で，１対１でカ
　　　　　　ルテ類の受け渡しと申し送りを行い，双方が確認シートにサインをしている。なお，担
　　　　　　当麻酔科医も患者を出迎え看護婦・士の患者引継ぎに立ち会っている。
　　　《５》患者とカルテが離れないように，ストレッチャーにカルテボックスを設けている。
　　　《６》心臓手術，無菌下での手術は，日勤者が３０分繰り上げ出勤し，対応している。

　　イ　外科病棟
　　　《１》移送時間を１０分ずつずらすことで，１人の看護婦・士が複数の患者を手術室へ移送す
　　　　　　ることは現在はない。

９／１～１０／１実績（２１日間）

手術の開始時間をずらした日数
１１日

日勤看護婦の移送件数１６件

深夜看護婦の移送件数１１件

９／１～１０／１実績（２１日間）
手術の開始時間をずらした日数	１１日
日勤看護婦の移送件数	１６件
深夜看護婦の移送件数	１１件

　　　《２》病棟看護婦・士は，病室を出る時点で，患者識別バンドと足底に書いてある氏名で患者
　　　　　　を確認するとともに，カルテ類の確認を行い，実施内容を看護記録に記載している。
　　　《３》手術室までの患者移送時は，主治医が同行している。
　

　　　　以上のことが徹底できるようマニュアル等を見直すとともに現場での教育・指導を行って
　　　いる。

（３）今後の課題
　　　患者の安全の確保と円滑な業務が行われるよう，再発防止策の実施状況を把握する。
　　ア　手術室では手術時間・手術内容に見合った職員配置を検討する。
　　イ　病棟では看護業務の状況を曜日別・時間帯別に把握する。
　　ウ　医師の勤務体制や看護業務量にあわせて，看護職員を効果的に配置できるように勤務体制
　　　を検討する。
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