資 料 1

          医療事故の概要

今回の医療事故の概要及び事実経過は次のとおりである。

1 患者
(1) A氏(年齢74歳,男性)
   予定されていた手術(心臓) :僧帽弁形成術又は弁置換術
   実際に行われた手術(肺) :右肺嚢胞壁切除縫縮術
(2) B氏(年齢84歳,男性)
   予定されていた手術(肺) :試験開胸術中生検,悪性の場合右肺上葉切除術
   実際に行われた手術(心臓) :僧帽弁形成術

2 事故の事実経過
(1)病棟から手術室交換ホール
    平成11年1月11日(月)午前8時20分,2人の病棟看護婦が,病室から,それぞれA
   氏,B氏を業務用エレベーターの中まで移送した。その後,病棟看護婦のうち1人が病棟に戻
   り,もう一方の病棟看護婦が1人でA氏及びB氏を4階にある手術室交換ホールまで移送した。

(2)手術室交換ホール
    手術室交換ホールにおいて,A氏をB氏と,B氏をA氏と取り違え,それぞれ本来とは異な
   る手術室に移送した。
   その後,病棟看護婦がA氏及びB氏の手術担当看護婦に申し送りを行い,A氏の背中にフラ
   ンドルテープ(心疾患患者用の薬剤を塗布してある貼り薬)が貼付してあることなどを説明し,
   それぞれの手術担当看護婦にカルテを渡した。カルテは患者と離れて本来の手術室に運ばれた。

(3)12番手術室(A氏に対し肺の手術を実施)
    麻酔科医が,患者(A氏)の背中に貼られていたフランドルテープに気付いたものの,患者
   を取り違えているとは思わずその場ではがした。
    その後,手術は,午前10時05分に,執刀医3人により開始された。
   手術中に,患者(A氏)には,B氏の腫瘍があると術前に診断した部位と同じところに,嚢
   胞様病変が認められたため,術前の所見と大きな矛盾はないと判断し,嚢胞の切除を行った。
    午後1時50分に患者(A氏)の手術は終了した。

(4)3番手術室(B氏に対し心臓の手術を実施)
   複数の麻酔科医及び執刀医が,患者(B氏)の毛髪や歯の特徴,肺動脈圧などの値が術前
  とは異なっていることなどから,A氏本人ではないのではないかと疑問に思い,議論が行われた。
   念のため,麻酔科医の1人が手術担当看護婦に指示して病棟に確認の電話を入れさせたもの
  の,確かにA氏は手術室に降りているという返事があった。
   その後,執刀医グループ外の医師(心臓血管外科グループの指導的立場の医師)が入室し,
  肺動脈圧などの所見が術前とは異なること,患者(B氏)の顔が外来でA氏を診察したときと
  は異なる印象を受けたこと,などにより,患者(B氏)はA氏本人ではないのではないかとの
  疑問を持った。これに対し,手術担当看護帰からA氏は手術室に降りているとの返事があった
  こと,他の医師からは本人ではないとする意見が出なかったこと,経食道エコーの結果などか
  ら患者(B氏)には軽度の僧帽弁閉鎖不全を認めると判断したこと,などにより,検査結果の
  違いは説明し得る変化であると解釈した。
   手術は,午前9時45分に,2人の執刀医によって開始された。胸骨心膜切開後,執刀医グ
  ループの責任者が手術室に入室し,検査結果を再検討したが,患者取り違えに気付くに至らな
  かった。
   左心房を切開し弁逆流試験をすると,予想していたよりも軽度ではあったが,病変を認めた
  ため,僧帽弁形成術を施行した。逆流試験にて逆流が消失したのを確認し,午後3時45分に
  患者(B氏)に行った心臓手術が終了した。
   なお,手術中に,A氏の自己血をB氏に輸血したが,同じ血液型であったので,急性溶血障
  害の問題は発生しなかった。

(5)手術終了後ICU入室
   手術後,A氏は午後3時50分に,B氏は午後4時20分に,それぞれICUに入室した。
  B氏の体重測定結果を見たA氏の主治医と麻酔科医は,A氏の心臓手術後に見込んでいた体
  重と異なるため,この患者はA氏ではないのではないかとの疑いを持った。
   ICUの医師がB氏を診察し,2人が入れ替わったのかもしれないと疑い,A氏の心音を聴
  いたところ心雑音が聴かれた。そこで,A氏に名前を尋ねたところ,患者が入れ替わっていた
  ことが確認された。