人々が生き生きと暮らす現代の
ニーズに合ったまちづくりを考える

国際総合科学群 都市計画論 准教授

中西正彦

なかにし・まさひこ

中西正彦

まちづくりを専門とする研究者へのニーズの高まり

研究の成果が表れた、自治体の都市計画

 近年、都市計画に先進的に取り組み、独自の計画やまちづくり条例の制定を考えている自治体からの相談が増えてきました。その中で、私にとって最も思い出深い仕事となったのが、東京都下のある市からの相談です。その市は、都市化が進んだ時代に計画的にまちづくりを進めるため、「市街化区域」と「市街化調整区域」にエリア分けする、通称「線引き」と呼ばれる仕組みを適用していますが、これが今の時代には合わないケースが出てきました。
 市街化調整区域とは、あまり都市化を進めないように開発が規制された「郊外」のことです。この区域にも制度導入当時は人口が多い地区があったのですが、近年は人口が減り活気を失っていきました。そのため、市街化調整区域でも、ある程度の活性化が必要になっていますが、あまり好ましくない土地利用は抑えなければなりません。
 そこで、私も委員として参加した市の土地利用方針策定委員会は、地元住民の方々や関係者と議論し、問題点を整理して、市街化調整区域の今後の方針づくりに関する提案を行いました。この提案書作成には私自身、専門家として力を注ぎました。それを受けて、市街化調整区域の土地利用に関する条例が策定されましたが、都市計画の担当者からは、「条例案を作るときはもちろん、議会説明などでも提案書がとても参考になり、役に立った」と言われました。その後もその市とのつき合いは続いており、これは、私にとって大きなやりがいになっています。

 

YCUで学んだことを、さまざまな分野で活かしてほしい

 その市での仕事も縁となって、最近は他の自治体からも仕事の依頼が来ることが増えてきました。その中で私が感じているのは、都市計画を推進する行政側の需要に対して、学術的な観点から対応できる人材が不足していることです。しかし、都市計画の分野は、あまり営利的な発想では行われないため、企業などがこの役割を担うのは難しい面があります。そこで学術的な知見を擁している大学が、実践的な性格も強めてこの役割を担うことが必要だと私は考えていますし、世の中に求められています。その意味では、YCUも2015年度からまちづくりコースの教員が増え、体制が充実するのは喜ばしいことです。
 現在、まちづくりコースで学ぶ学生たちにも、将来のまちづくりに貢献できる人材に育ってほしいという期待もありますが、まずは物事の本質をしっかり見極めることができる力を身に付けてほしいと思っています。世の中には、調整と妥協で物事が進んでいくことが多くあります。中には妥協の末に生まれた結果が、本来あるべき姿とは違うということもあるでしょう。しかし、そういった状況の下でこそ、本質を見失わずに物事を考えて主張できる力が必要です。
 この力は、都市計画にしか活かせないということではありません。例を挙げると、建物の価値を知っていることは保険の対象や資金の運用で不動産を扱う保険会社でも必要とされる知識ですし、ITのシステム会社に就職してバスルートの運行システムを構築するといったシーンでもまちづくりの知識が活かせます。YCUで学んだ「まちづくりのマインド」を幅広い分野で活かし、社会に貢献してほしいと考えています。

 カメラを常に携帯しています。写真撮影が趣味というよりはカメラという道具が好きなのですが、仕事上、街並みの写真をよく撮るので、趣味と実益を兼ねて持ち歩いています。(写真は、ニューヨーク視察の際に市街のビル群を撮影したもので、都市計画上の形態規制の影響を受けたビルの形が、授業での良い事例紹介にもなる )
 また、数年前から弓道を始めました。弓道を趣味にして以来、背筋を真っすぐ伸ばす習慣がつき、姿勢が良くなったと言われます。デスクワークが多いので肩こりに悩まされていたのですが、最近はすっかり良くなりました。
 弓道は禅に通じるものがあり、弓を放つ瞬間まで心も体も高めていくのですが、この緊張感がたまらない魅力です。まるで精神修行のようですが、弓道に行くとストレス発散になり、心と体、両面に良い影響があると感じているので、長く続けていきたいですね。

(2015年3月掲載)

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