vol.4 脳や神経の難病に、臨床研究と基礎研究の両輪で立ち向かう 医学群 神経内科学・脳卒中医学 教授 田中 章景(たなか・ふみあき) vol.4 脳や神経の難病に、臨床研究と基礎研究の両輪で立ち向かう。 医学群 神経内科学・脳卒中医学 教授 田中 章景(たなか・ふみあき)

基礎研究と臨床研究の橋渡しこそが重要

他の診療科や地域と連携して、様々な患者さんを診察

 神経内科が扱う病気は数え切れないほど多く、横浜市立大学附属病院、横浜市立大学附属市民総合医療センターでも、幅広い領域の患者さんを診療しています。SCD、ALS、パーキンソン病、アルツハイマー病といった神経変性疾患のほかにも、視覚障害や手足に力が入らなくなったり、しびれを引き起こすなど多彩な症状が出ては消え、また再発してくる多発性硬化症、急に手足に力が入らなくなるギラン・バレー症候群、手足の筋力に加え、眼球周辺の筋力が特に低下する重症筋無力症など、免疫の異常によって起こる神経免疫疾患などの難病も対象としています。
 体の部位別に見ると、脳の病気では脳炎や頭痛、てんかん、脊髄の病気は脊髄梗塞や脊髄炎、末梢神経の病気は手根管症候群や顔面神経麻痺、各種の多発神経炎、筋肉の病気は筋炎や筋ジストロフィー症など、症状は全身に及びます。
 また、糖尿病やガン、膠原病に併発する末梢神経障害もあれば、脳の病気には、うつをはじめとする精神症状を伴うこともありまます。脳をはじめとする神経系だけでなく全身の病気を考えて診療を行う必要があり、各内科や脳外科、精神科など幅広い診療科との連携も非常に重要です。
 神経内科で扱う疾患の中で、一般に患者数が最も多いのが、脳の血管障害である脳卒中[Keyword 2]です。大学病院では、神経難病が多数を占めているため最も多いとは言えませんが、それでも附属病院には急性期脳卒中の患者さんのためのベッドが用意されており、救急時の診療などを行っています。慢性期の患者さんに対しては、普段は地域のかかりつけ医に通院してリハビリや再発予防に取り組んでいただき、何かあった時には必要に応じて附属病院で対応する「地域医療連携」を推進しています。

[Keyword 2]脳卒中
脳の血管が詰まる「脳梗塞」、血管が破れる「脳出血」、動脈瘤が破裂する「くも膜下出血」の3つに代表される脳血管障害。戦後30年近くにわたって日本人の死因トップで、がんや心臓病とともに3大疾病に数えられる。国内の患者数は約124万人(2011年)。

基礎研究の成果を、臨床の現場に生かしていくために

 医学研究には主に、患者さんの普段の診療を通じて行う「臨床研究」と、実験室レベルで行う「基礎研究」の2つがあります。「臨床研究」は、多数の症例を詳細に検討したり、薬などによる治療効果を見極めることで、診療で得られる様々なデータを解析します。「基礎研究」は、動物や細胞などを用いる分子生物学的手法や遺伝子解析技術などのアプローチから、仮説や理論を実証するものです。難病が起きるメカニズムを解明して、今までにない新しい治療法を開発するためには、基礎研究が必須ですが、この成果を実際の患者さんに応用していくための、基礎と臨床をつなぐ「橋渡し研究」も、これからますます重要になると思います。
 私たちが現在取り組んでいる研究の一つは、細胞や動物で神経難病のモデルを作って、その中でタンパク質相互の関係が正常に比べてどのように変化しているのかを分子生物学的に明らかにするものです。これによって病気を引き起こしているキーとなるタンパク質を発見し、新たな治療法開発につなげたいと思っています。また、患者さん個人のゲノム(遺伝情報)を解析して、病気の原因となる遺伝子や、発症や進行に影響する遺伝子を探すという研究も行っており、すでに日本初、世界初といった異常をいくつか発見しています。このような遺伝子解析研究は、ゲノムと臨床データとの関連性を明らかにして、個々の患者さんに応じた治療を実践する近未来の医療(テーラーメード医療)にもつながるもので、基礎研究と臨床研究の両輪がうまく回ってこそ実現が可能になると言えます。