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研究成果

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生命医科学研究科 小川教授ら研究グループが凍結精巣組織片からの精子産生と産仔に成功!

〜『Nature communications』に掲載〜

横浜市立大学大学院生命医科学研究科 小川毅彦教授、医学研究科泌尿器病態学 窪田吉信教授(現学長)と大学院生 横西哲広医師らは、新生仔マウスの精巣組織を凍結保存し、解凍後に器官培養することによって精子形成を誘導させ、精子産生に成功しました。この精子を用いて産仔を得ることにも成功し、臨床応用の可能性を示しました。
この研究は、理化学研究所バイオリソースセンター 遺伝工学基盤技術室・小倉淳郎室長、国立成育医療研究センター 周産期病態研究部・秦健一郎先生との共同研究による成果です。

☆研究成果のポイント
○精子形成が開始していない新生仔マウスの精巣組織を凍結保存し、解凍後に器官培養して精子産生することに成功した。得られた精子細胞と精子を用いて顕微授精し、健康な産仔を獲得できた。

○精子凍結保存ができない男児の生殖能を温存する方法として精巣組織片の凍結保存が有効であり、解凍後に正常な精子を得られる可能性を示した。

研究概要

私たちの研究室では、マウスの精巣組織を器官培養することで精子産生と産仔の獲得に成功し、その成果を2011年3月に英国科学誌『Nature』に報告しました(参考文献1)。この技術を発展させ、男性不妊の原因解明と治療に貢献すべく研究を続けています。2012年には、無精子症のマウスの精巣組織を、サイトカインを加えた培地で培養することによって精子産生したことも報告しました(参考文献2)。そして今回、私たちは新生仔マウスの精巣組織を凍結保存し、解凍後に培養して妊孕能(にんようのう:妊娠させる力)を有する精子を産生することに成功しました。
生殖腺毒性を有する抗がん剤治療や放射線療法の晩期合併症の一つに不妊症があります。射出精子が回収できる思春期後の男性がん患者では、治療前に精液を凍結保存することができ、妊孕能温存法として確立しています。精液を保存液と混和して液体窒素内に置けば、数十年以上保存が可能です。顕微授精 a) の技術的進歩によって、凍結保存した精子でも、凍結していない精子を用いた場合とほぼ同等の受精率、着床率、出産率が得られるようになりました。しかし、性未成熟な若年男性がん患児では精子形成が開始しておらず、精子凍結保存は応用できません。小児がんの治療が進歩し、治癒率は急速に改善していますが、晩期合併症に悩むケースも増えています。そのひとつが、癌治療経験者の不妊症です。そのような現状を背景に、われわれはマウスを用いた実験を行いました(図1)。
最初に、凍結法の検討を行いました。細胞凍結保存に用いられている一般的な方法である緩慢凍結保存法 b) と、卵の凍結法として確立しているガラス化凍結保存法 c) を用い、新生仔マウスの精巣組織をこれら二つの方法で凍結した後に解凍し、培養を行った結果、それぞれの方法で精子細胞、精子を得ることに成功しました(図2)。また凍結精巣組織からの精子回収効率は、凍結保存を行っていない場合と遜色ない結果でした。最後に、産生された精子細胞および精子を用いて顕微授精を行ったところ、健常な産仔が得られ、それら仔マウスたちは正常に成長し、成熟後に自然に交配して孫世代が得られました(図3)。性未成熟な哺乳類の精巣組織を凍結保存し、培養下で妊孕能を有する精子を得たのは世界で初めての成果です。
本研究の結果はマウスという実験動物を用いたものですが、将来ヒト精巣組織の培養法が完成し、培養下で精子産生が可能となれば医学応用が現実的なものになると考えられます。特に小児がん患者(男児)の精巣組織を凍結保存することは、患児の生殖能を保存することとなり、癌治療に伴う不妊症という晩期合併症を生じた際に、挙児(きょじ:子供を得る)の可能性を残す非常に有力な方法になると期待されます。

用語解説
a) 顕微授精:ガラス針によって精子を直接卵に注入して受精させる方法。
b) 緩慢凍結保存法:1〜2Mの浸透圧のやや高い保存液に検体を浸漬させ、細胞内と細胞外を脱水させつつ緩徐に温度を下げて、最終的に液体窒素に漬けて凍結させる方法。緩徐に凍結させることによって、凍結過程で生じる氷晶形成を防ぐことができ、組織障害を防げる。
c) ガラス化凍結保存法:4〜6Mと高濃度の保存液に浸漬させ、一気に液体窒素に漬けることで細胞と組織内の水分を氷晶形成させずに固化(ガラス化)させる方法。理論上、氷晶形成は生じない。

参考文献
1) Sato T, Katagiri K, Gohbara A, Inoue K, Ogonuki N, Ogura A, Kubota Y, Ogawa T: In vitro production of functional sperm in cultured neonatal mouse testes. Nature 471, 504-507 (2011)
2) Sato T, Yokonishi T, Komeya M, Katagiri K, Kubota Y, Matoba S, Ogonuki N, Ogura A, Yoshida S, Ogawa T: Testis tissue explantation cures spermatogenic failure in c-Kit ligand mutant mice. Proc Natl Acad Sci U S A. 109, 16934-16938 (2012)

*本研究成果は、英国の科学誌『Nature Communications』に掲載されます。
(米国東時間7月1日午前11時:日本時間7月2日午前0時 オンライン掲載)

*この研究は、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「配偶子産生制御」および基盤研究(B)、公益財団法人 山口内分泌財団からの研究補助金により行われました。本学においては「学長裁量事業(戦略的研究推進費)」のひとつに位置付けられており、先端医科学研究センターの研究開発プロジェクトユニットが推進しています。